京都ふじわらFP事務所

お金と人生をデザインする。京都の独立系ファイナンシャルプランナーです。

教育費は人生の三大出費のひとつです。ところで日本は教育の無償化を国際的に公約していることをご存知でしょうか?


皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!独立系FPの藤原@CFPです。
今回は、教育費に関するトピックをお送りしましょう。最近、とくに政治課題として注目を集めていますが、そもそも教育費の無償化って、どこまで進んでいるのでしょうか?私などが学校に通っていた昔と今では随分と様変わりしているのです…

教育費は人生の三大出費のひとつ

教育費は人生の三大出費のひとつといわれています。他の二つは「住宅費」「老後資金」です。これらは、われわれFPが所掌するパーソナルファイナンスの中でも大変切実な問題ですね。

教育費は高騰を続けている

なぜなら教育費はデフレ経済化においても激しく高騰を続けてきたからです。
例えば国立大学の授業料をとっても、30年前の1992年と今では、実に約43%増加していて、さらに遡って1970年と比べると40倍以上に高騰しています。
近年諸物価高騰の影響で私立大学も相次いで学費の値上げに踏み切りました。国立大学は法人化しているので、基本的には学費値上げも各大学独自で決定できることになっており、いつ値上げが起こっても不思議ではない状態です。(さすがに近年急激に高騰しすぎたので2006年から据え置いていますが、そろそろ危ないと思います…)
https://nenji-toukei.com/n/kiji/10037nenji-toukei.com
www.asahi.com
「失われた30年」の間、賃金は上昇せず、教育費の負担は家計を直撃し、社会階層の固定化、格差の拡大という社会変化を起こしてきました。日本の場合、奨学金は給付ではなく貸与制が基本なので、学生自身も貸与制の奨学金を借りて、大学を卒業して社会に出た途端に数百万円のローン返済がのしかかる状態に置かれたりする理不尽な現実があります。

「教育費の無償化」はすでに政府の決定事項で、国際社会に約束した義務だった

しかし一方で、政府が実は徐々に高等教育まで無償化する意志を持っており、国際社会に約束しているという事実を知る人は意外と少ないのではないでしょうか。

国際人権規約*1にその内容が書かれていて、日本も昔批准しているのですね。
「国際人権規約は、世界人権宣言の内容を基礎として、これを条約化したものであり、人権諸条約の中で最も基本的かつ包括的なものです。社会権規約と自由権規約は、1966年の第21回国連総会において採択され、1976年に発効しました。日本は1979年に批准しました。なお、社会権規約を国際人権A規約、自由権規約を国際人権B規約と呼ぶこともあります。」とされています。
www.mofa.go.jp
このA規約の13条2項 (b)及び (c)に、高等教育までの教育費を無償化するという人権に関する理念が書かれているのですが、批准した当時、わが国ではすぐには無理、ちょっとまってくれという意味で留保としていたところ、この保留を撤回することが、2012年の民主党政権で閣議決定されているのです。ちなみにこの留保をつけていたのは、日本とマダガスカルだけの状態だったそうです…
www.hurights.or.jp
つまり、日本は「中等教育」「高等教育」を徐々に無償化していくよとすでに国際社会に宣言しているわけです。
ただ注意が必要なのは、ここでいう「高等教育」に高等学校は入らないことです。高等学校は規約では「中等教育」にあたります。「高等教育」とは、大学、短大、専門学校等を指します。
kanasou-law.com
つまり、「中等教育」まではすでに無償化されている(ただし、なぜか私立小学校・中学校は対象外!)けど、「高等教育」の無償化は比較的最近に始まったばかりというのが日本の現状なわけです。
また、わが国政府は将来的には欧米諸国と同様に「高等教育」までの教育費を無償化することを決定し、すでにその義務を負っている状態なわけなので、わたしたち一般市民は、家計における教育費の負担を解消するために、早く約束通り「高等教育」までの教育費を無償化してくれ、世界に向けて約束したはずでしょ!と大きな声で(?)いえば、家計における教育費の問題は大幅に軽減するというわけです。ご存知でしたか??
野党は教育費の無償化を公約とするところがいくつかありますが、そもそも政治課題ではなく、決定事項のはずでは?ということなのです。

2020年度から「高等教育」の無償化は一部実施済み

実際、上記の政府決定を受けて、随分遅れたものの、2020年から以下のような「高等教育」無償化への政策が実施されています。正式名称は「高等教育の修学支援新制度」です。授業料の免除・減額は昔から実施されているおなじみのメニューなので新しい制度と言われても、え?という内容ですが、従来の貸与型ではなく給付型奨学金の大幅拡充が目新しいところですね。
ただし、対象者は住民税非課税世帯(モデルケースで年収約380万円程度まで)が基本イメージなので、対象者は限定的で誰でも利用できる制度ではありません(要注意なのは、保有資産についての基準があることです)。「高等教育」無償化はあくまで一部が実施済みで、漸進的な拡充による完全無償化が期待されるといったところが実情です。
www.mext.go.jp

2024年度から「高等教育」の無償化はさらに拡充する予定

そして来年度からは「安心して子どもを産み育てられるための奨学金制度の改正」が行われます。
上記の「高等教育の修学支援新制度」の制度を拡充し、住民税非課税世帯中心の制度から中間層への支援対象拡充が行われることになっています。授業料免除等の支援は、モデルケースで約600万円程度の家庭まで対象になるようです。
www.mext.go.jp

「初等教育」「中等教育」の積み残し課題とは

以上のことを踏まえて、教育費無償化政策の構造をわかりやすく表にしてみました。高校は実質無償化済み、大学・短大等は実質無償化が進展中ということがわかります。

一方で、私立小学校、私立中学校の無償化は手つかずで、「初等教育」「中等教育」において前述の国際規約の約束に反している状態であり、問題ありといえます。国民としては、条約を守って早く無償化しろ!と要求することは原理上可能です。
ただ現実問題として、小中学校で私立を無償化すると施設環境等が劣悪な公立学校をだれも希望しなくなって、公的な義務教育制度が崩壊するでしょうから、たしかに簡単な話ではないですね。諸外国の制度も一様ではないです。

家庭での当面の対策は必要

以上のように、2012年の規約条項の留保撤廃に端を発した教育費の無償化の流れは少子化対策も絡んで近年特に活発化しつつあります。
とはいえ、特に私立の小中学校で無償化が進んでいないし、授業料以外の負担も大きいので、「高等教育」までの完全無償化へのハードルは依然高く、直近では現状の仕組みの中で家計のギリギリのやりくりを続けるしかありません。国や地方自治体独自の支援制度などを上手に使うことを前提として、人生100年時代の家庭のキャッシュフローを考える必要があります。
そのお手伝いが必要なら、お近くのFPに声をかけてみてください。具体的な計数に基づいて、役に立つ助言ができると思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。

参考

fp-f.net

*1:正式には、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」といいます。