皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!
行動経済学の分野については、最近大きな注目を浴びていて、関連書籍もたくさん出てますね。
たまたま、図書館で大竹文雄先生の岩波新書を発見したので、手始めに読んでみました。
FP試験でごく初歩的な知識はありますが、行動経済学に関する本を読んだのは、実は初めてです。
著者はこんな人
著者の大竹文雄氏は、大阪大学大学院経済学研究科、大阪大学感染症総合教育研究拠点 科学情報・公共政策部門 行動経済学ユニットの特任教授です。
まだお若いので定年ではないと思いますが、特任教授なんですね。なんでだろう?
以前に、大阪のFPフェアで講演を拝聴したことがあります。
本書の構成
本書の構成は以下のとおりです。岩波書店のHPに詳細が載っています。(凄いな。)
第1章 行動経済学の基礎知識
1 プロスペクト理論
リスクのもとでの意思決定/確実性効果/損失回避/フレーミング効果/保有効果
2 現在バイアス
先延ばし行動/コミットメント手段の利用
3 互恵性と利他性
社会的選好/互恵性
4 ヒューリスティックス
近道による意思決定/サンクコストの誤謬/意思力/選択過剰負荷と情報過剰負荷/平柊への回帰/メンタル・アカウンティング/利用可能性ヒューリスティックと代表性ヒューリスティック/アンカリング効果/極端回避性/社会規範と同調効果/プロジェクション・バイアス
第2章 ナッジとは何か
1 ナッジを作る
軽く肘でつつく/行動の特性を考える/行動変容を本人が望んでいるか/ナッジの選び方
2 ナッジのチェックリスト
Nudges/EAST/MINDSPACE
3 ナッジの実際例
老後貯蓄の意思決定/自然災害時の予防的避難/ナッジは危険なのか?
第3章 仕事のなかの行動経済学
1 三つの例から
バイトのシフトをどう入れるか/タクシー運転手の行動予測/行動経済学で解釈すると/プロゴルファーの損失回避
2 ピア効果
優秀な同僚が入ってきたら/スーパーマーケットのレジ打ち/競泳のタイム決勝
第4章 先延ばし行動
1 賃金について考える
参照点による効果/伝統的経済学による年功賃金の説明/行動経済学による年功賃金の説明
2 バイアスに着目する
失業期間を短くする/長期失業を防ぐナッジ/社会保障給付申請の現在バイアス/長時間労働と先延ばし行動
第5章 社会的選好を利用する
1 贈与交換
贈与交換で生産性は上がるか/負の贈与の影響/贈与のイメージを意識させる
2 昇進格差はなぜ生まれる?
競争選好に男女差はあるか/マサイ族とカシ族での実験
3 多数派の行動を強調する
女性の取締役を増やすナッジ/無断キャンセルを減らすナッジ
第6章 本当に働き方を変えるためのナッジ
1 仕事への意欲を高める
際限なく続く仕事/「シーシュポスの岩」の実験/意味のある仕事
2 目標と行動のギャップを埋める
達成できない目標/実行計画を書き出す/量ではなく時間で/合理的行動の落とし穴/習慣化できるルールを作る/次善の策がベストの策
第7章 医療・健康活動への応用
1 デフォルトの利用
ナッジで変える健康活動/大腸がん検診の受診率向上ナッジ/ワクチン接種率の向上ナッジ/オプト・イン/終末期医療の選択
2 メッセージの影響を考慮する
利得フレームと損失フレーム/治療法の説明
3 成果の不確実性を考慮する
ダイエットのナッジ/ジェネリック薬品への切り替え
4 臓器提供のナッジ
イギリスでの実験/日本での実験
第8章 公共政策への応用
1 消費税の問題
重く見える消費税負担/同じ税負担でも消費行動が変わる/誤計算バイアス/軽減税率はなぜ好まれるのか/軽減税率は補助金と同じ/軽減税率の行動経済学
2 保険料負担の問題
一般の人の理解/伝統的経済学での理解/現実はどちらか
3 保険制度の問題
公的年金・公的健康保険の必要性/モラルハザード/法案提出と損失回避/少数派として意識させる
4 O型の人はなぜ献血をするのか
血液型性格判断/献血行動と血液型/血液型の特性に着目する
本書のポイント①
行動経済学の知見を利用して、具体的にどんなナッジを作ることができるかというのが、本書の主題です。
そのなかで資産運用には全く関係ない部分ですが、「競争選好に男女差はあるか」という箇所が興味深かったですね。
女性は競争を避ける傾向があると言われますが、それは性別役割分担に関する文化的要因で、遺伝的なものではなく、女性は女性ばかりのグループでは競争志向が高まり、自信過剰傾向にもなるし、女系的社会では男性よりも競争志向が高いのだそうです。
あとは、所得税と消費税を例に上げて、税金に関する損得の比較計算が合理的にできているかといえば、できない人が多いという実験は非常に興味深いですね。
実際、税金の損得勘定は直感的にはできないと思います。それは人間の心理的な特性などは全く考慮せず、素朴に法律的に制度設計されているからです。
本書のポイント②
これもパーソナルファイナンスとは全く無関係ですが、災害対策の部分で、予防的避難の意思決定に関して、「身体にマジックで住所と氏名を書いてください」というナッジが紹介されています。
実際に、アメリカでハリケーン上陸の際に、「残留する人は身体にマジックで社会保障番号を書いてください」というメッセージが有効だったそうです。
それにより自分の死亡というイメージが参照点になり、避難=不自由=損失という損失回避のバイアスを、避難=生存=利益という構図に置き換えることができるというわけです。
そこまでやるかという気はしますが、確かに効果ありそうですね。。。今後、日本でも見かけることになりそうな気がします。
オススメ度合い ★★☆
資産運用に直接関連する部分は主眼ではないので、星は少なめにしておきましたが、前半に行動経済学の考え方の概要が簡潔に説明されているので、基礎知識は得られると思います。
伝統的経済学の世界では、計算高くて自己利益を最大化する架空の「合理的経済人間」がモデルとして使われるわけですが、もちろんそんなのノーマルスタンダードではありません。
人間の思考能力、意思決定行動の資源のうち、その都度使える分量には限りがあり、判断行動を省エネ化するため、人間の認識には様々なバイアスが存在するということは、知っておくべきでしょう。
なんて、偉そうに言ってますが、正統派の経済学はほとんど門外漢(大昔に試験はパスしてるけど)だし、行動経済学についても勉強を始めたところです!
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。