京都ふじわらFP事務所

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被害者にも非があるとつい考えてしまうのは何故?川合伸幸監修『認知バイアス大全』より④

皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!

先日から行動経済学や行動ファイナンスについていくつか本を読んでいるのですが、本書は経済学やファイナンスだけでなく、人間の脳が持っている認知バイアス全般について書かれたものです。

認知バイアスを「人間関係」「組織停滞」「消費者と市場」「偏見と差別」「思想と政治」の5種類に分類しているので、FPとしては「消費者と市場」のパートが守備範囲としてはメインになりますが、もともと実験心理学分野を学んだので、その他のジャンルも非常に興味深いです。

著者はこんな人

監修の川合伸幸先生は、名古屋大学情報学研究科の教授で、博士(心理学)です。

専門は比較認知科学、認知科学、実験心理学なので、応用心理学ではなく基礎心理学の世界の先生のようです。

実際に記事を書いているのは、オフィス201という編集プロダクションのライターさんだと思います。

本書の構成

PART1 どうしてわかりあえないの!? 人間関係のバイアス
PART2 うちの会社や上司は、なぜああなのか 組織停滞のバイアス
PART3 行動経済学で業績を伸ばす! 消費者と市場のバイアス
PART4 「自分は差別してない」の嘘に気づく 偏見と差別のバイアス
PART5 社会はなぜ、ここまで二極化したのか 思想と政治のバイアス
PART6 バイアスはつきもの。でも、人は変われる 認知バイアスへの対処法

「他人は感情的、自分は合理的」―その思い込みはバイアスです 膨大な情報に惑わされず、正しい判断のために知っておきたい現代の必須教養!、という惹句が付されています。

今回取り上げる「公正世界仮説」はPART4 偏見と差別のバイアスに属します。

本書のポイント:「公正世界仮説」

なにしろ、盛りだくさんの認知バイアスが紹介されているので、何回かに分けて紹介しましょう、という企画の4回目です。

今回は「公正世界仮説」(または公正世界誤謬)のバイアスについて紹介しましょう。

なにか事件がおきたとき、犯罪被害者にも落ち度があったんじゃないか、いやあったはずと思ってしまいますよね。

加害者が悪いのは当然としても、被害者にも犯罪を誘発する隙があったんじゃないか、などと言う人がいます。でも、これはいわゆるセカンドレイプのような事象を引き起こす原因でもあり、昔から問題視されてきました。

こうした現象はなぜ起こるのでしょうか。社会心理学や発達心理学の分野で研究が進んでいます。

「世界は公平だから、善人は幸福になり、悪人は不幸になるのだ」という考え方が古くから人間の心のなかに構成されているのですが、これ自体が「公正世界仮説」というバイアスであり誤謬だというのですね。なぜなら現実はそうじゃないから。

この考え方を逆にたどると、不幸になったのはその人が悪人だからということになってしまうのが厄介なところです。

殺されるという不幸に見舞われたのは、被害者があくどい金儲けをしてたからでしょ?とか、性犯罪の被害者になったのは、露出の多い服を着てたからでしょ?といったふうに、ついつい発想してしまうわけです。

もちろんこれは端的に誤りで、人間の心理的な誤謬であり、合理的な考え方ではありません。

自動的に脳裏に湧いてくる邪念であることを認識する必要があります。自然とそんな気が起こってくるけど、そのときに反射的に口に出すことは理性で抑えるのが常識的な大人の姿勢です。

でもなぜ人間の心理にはそんな誤謬が根付いているのでしょうか。

それは心の安定を保つために便利だからです。

何の非もないのに突然犯罪被害者になる、そこに因果はないと考えることは内心の不安を呼び起こすので、非があったからこそ不幸に遭ったんだね、自分は何も悪いことをしてないから大丈夫だね!というロジックを信じて安心することができるわけです。

さらに「公正世界仮説」には「内在的公正世界信念」「究極的公正世界信念」の2つのカテゴリーがあるのですが、その詳細についてはこの本を読んでみてください。非常に重要な論点が書かれています。犯罪の加害者に厳罰を求めることは本当に正しいのでしょうか?

オススメ度合い ★★☆

いつもながらナツメ社のデザインは読みやすいですね。

巻末にちゃんと参考書籍や論文も紹介されているので、助かります。

今回の「公正世界仮説」もそうですが、監修者の専門分野の関係上、行動経済学というよりも、むしろ認知心理学や実験心理学などに関する知見が多いので、心理系に興味のある方にもオススメです。

最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。

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