皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!
先日から行動経済学や行動ファイナンスについていくつか本を読んでいるのですが、本書は経済学やファイナンスだけでなく、人間の脳が持っている認知バイアス全般について書かれたものです。
認知バイアスを「人間関係」「組織停滞」「消費者と市場」「偏見と差別」「思想と政治」の5種類に分類しているので、FPとしては「消費者と市場」のパートが守備範囲としてはメインになりますが、もともと実験心理学分野を学んだので、その他のジャンルも非常に興味深いです。
著者はこんな人
監修の川合伸幸先生は、名古屋大学情報学研究科の教授で、博士(心理学)です。
専門は比較認知科学、認知科学、実験心理学なので、応用心理学ではなく基礎心理学の世界の先生のようです。
実際に記事を書いているのは、オフィス201という編集プロダクションのライターさんだと思います。
本書の構成
PART1 どうしてわかりあえないの!? 人間関係のバイアス
PART2 うちの会社や上司は、なぜああなのか 組織停滞のバイアス
PART3 行動経済学で業績を伸ばす! 消費者と市場のバイアス
PART4 「自分は差別してない」の嘘に気づく 偏見と差別のバイアス
PART5 社会はなぜ、ここまで二極化したのか 思想と政治のバイアス
PART6 バイアスはつきもの。でも、人は変われる 認知バイアスへの対処法
「他人は感情的、自分は合理的」―その思い込みはバイアスです 膨大な情報に惑わされず、正しい判断のために知っておきたい現代の必須教養!、という惹句が付されています。
今回取り上げる「生存者バイアス」はPART2 組織停滞のバイアスに属します。
本書のポイント:「生存者バイアス」
なにしろ、盛りだくさんの認知バイアスが紹介されているので、何回かに分けて紹介しましょう、という企画の3回目です。
今回は「組織停滞」のバイアスについて紹介しましょう。
本書では「生存者バイアス」というタイトルになっています。
成功体験、成功者だけみて失敗を顧みない心理的な傾向についてのバイアスです。
基本的に人間の歴史も組織も生存者によって紡ぎあげられたものなので、当然のことながら、うまくいった人の言ったことが皆に参照されます。
でも現実世界での成功の大半は偶然と運によって支配されるので、それでは何が失敗した原因なのかは理解できないままです。
失敗例、脱落例を見ないと本当の原因や真実は見えてこないわけです。
大体、何かの失敗が起こったときに、組織は個人に責任を転嫁したり、隠蔽を図ったりしがちで、失敗の原因を真摯に学ぼうとしないものですが、失敗例にこそ組織生存のヒントが隠されているわけです。
失敗をなかったコトにできる社会なら、まだしもこれで延命できますが、航空機や電車の人身事故などについては、生存者バイアスに左右されては困りますから、そうした業界では真摯に失敗事例から学び取るシステムを持っているはずだと思います。
実際のところ、われわれ凡人が世界的な成功者の経験などを参照してもあまり役には立たず、むしろ大失敗で退場した人の経験の中にこそ直接的に有益な教訓やヒントが含まれていると感じるところです。
オススメ度合い ★★☆
個人的にナツメ社の編集デザインは好きなので、本書も読みやすいと感じます。
巻末にちゃんと参考書籍や論文も紹介されているので、助かります。
監修者のポジション上、行動経済学というよりも、むしろ認知心理学や実験心理学などに関する知見が多いので、そっち系の方にもオススメです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。