皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!独立系FPのふじわら@CFPです。
以前から「大学ファンド」の動向には注目して、ウォッチを続けているところですが、記事の投入は久しぶりです。(これまでの「10兆円大学ファンド」の名称はさすがにゲスなので、今後は単に「大学ファンド」と記載します)
以下のように、JSTの公式HPの情報開示も徐々に充実してきました。
www.jst.go.jp
- 為替変動をヘッジしたため、短期の運用成績は冴えないが
- どれくらい為替ヘッジを行ったのか
- とはいえ、卓越大学への出捐時期は決まっており…
- 個人投資家は為替ヘッジをどう考えるべきか
- 「大学ファンド」に課された、そもそもの無茶振りが問題では?
- 参考
為替変動をヘッジしたため、短期の運用成績は冴えないが
初年度にあたる2022年度の運用実績については、以前に以下のような記事を書いたところですが、その後、「大学ファンド」の運用実績について詳しい記事が出てきました。
fp-f.net
東洋経済記者の大竹麗子氏が「大学ファンド」については継続的に取材されているようで、以下のような記事もありました。(会員登録が必要です。)
toyokeizai.net
でも、今回取り上げたいのは以下の記事です。「大学ファンド」が初年度に604億円の赤字(▲2.2%)を出した原因を探ります。
toyokeizai.net
記事タイトルですでに結論が出ているわけですが、海外での金利上昇に逆相関する形で債券価格が下落して評価損が発生したが、為替ヘッジを行っていなければこのところの急速な円安傾向で評価損を取り戻せたかもしれないのに、為替ヘッジを行っていたために債券価格の下落の影響をストレートに受けてしまったということです。一方でGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は同年度に1.5%の運用益を出しています。
要約すると、「大学ファンド」はまだ運用を始めたばかりで、ポートフォリオの組成の途中なのでリスクを多くとれないため、債券中心の運用としているし、外貨建ての為替変動リスクをヘッジしている。株式比率が低いので期待リターンはそもそも小さく、リスクの低減を優先した運用となっている。債券中心なのでもともと期待利回りは低いのだが、このところの急速な円安傾向の為替動向をヘッジしたため、外貨建の債券価格で利益を取りそこねたということですね。為替ヘッジをしていなければ、円安の恩恵(相当大きかった)を受けて、金利上昇による債券価格の下落をある程度相殺できたはずですが、為替リスクを相当な手数料を負担して回避しようとした(為替ヘッジ)ことが、短期的には裏目に出たわけです。(ただし、大竹氏の記事には海外での金利上昇で債券価格が下落したという重要な要因については触れられていませんでした。なぜ?)
どれくらい為替ヘッジを行ったのか
外貨建資産について、実際にどのくらいの為替ヘッジを行っているかといえば、以下のような状態です。
「大学ファンドの為替ヘッジ比率は44.3%。一方、国内最大級の運用規模を誇る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の同比率は(外国債券を分母とした場合)3%程度と低い。」
(出所)東洋経済ONLINE :
為替ヘッジが首を絞める「大学ファンド」の投資眼 安全運転が裏目?年3000億円資金拠出に暗雲 | 本当に強い大学 | 東洋経済オンライン
確かにかなり多いわけです。ガチガチに為替リスクを回避しようという構えです。でもそれは先に述べた主旨で意図的に行われたもので、想定内の話。同記事に喜田理事のコメントが書かれています。
「運用開始にあたり、喜田理事は「短期的にみると為替はボラティリティーのかなりの要素を占める。大学ファンドはボラティリティーに耐えるためにある程度は為替をヘッジする必要があるし、運用開始時はとくにヘッジを意識して運用を行う」と述べていた。」
(出所)東洋経済ONLINE :
為替ヘッジが首を絞める「大学ファンド」の投資眼 安全運転が裏目?年3000億円資金拠出に暗雲 | 本当に強い大学 | 東洋経済オンライン
あくまで想定内の話であるし、超長期的な運用を目指す「大学ファンド」としては、初年度に多少の含み損を出したところで、なんの影響もないはずです。そもそもファンドの長期的な運用のテクニカルな部分については、そういう話ではあるのですが、一方で、政治的な問題が生じます。資産運用とは別次元の話ではあるものの、本来の重要性としてはこちらが優先されることになります。
大竹氏の記事としては、為替ヘッジは本当に必要か?という問題提起の部分がキモになっているのですが、そこについては「諸説あります」というふうに、個人的には考えています。ポートフォリオの組成が完成すれば為替ヘッジはほぼ不要になるだろうが、失敗はできないので、初期はとにかく安全志向で行きたいというのは理解できる姿勢だと思います。
とはいえ、卓越大学への出捐時期は決まっており…
現在、国際卓越研究大学(以下、卓越大学)の選定が進んでおり、東北大学が第一弾として認定されたところですが、卓越大学への「大学ファンド」による支援はすでにスケジュールが決まっており、「大学ファンド」の運用状況のいかんによらず、出捐時期は最初にセットされています。
過去記事にも書いた通り、卓越大学構想の初期には2023年度中から支援開始とされましたが、2022年3月からのファンド運用でそれはさすがに無理で、「大学ファンド」構想の中心人物であった伊藤隆敏氏によれば、その後、2024年度当初からと修正され、最新の認識では2024年度秋あるいは2025年度当初からと修正されてきたようです。2026年度までには初期構想にある年間3000億円の運用益による大学支援を行う計画となっています。
forbesjapan.com
つまり何が言いたいかといえば、「大学ファンド」は当初期待したような運用益をいきなり叩き出すことは無理なので、運用状況に合わせる形で卓越大学を徐々に拡大しないと現実的に無理だよねということが共通認識として織り込まれて来たのではないかということです。
卓越大学だけ先に決まってしまっても、「大学ファンド」の運用益が追いつかなければ絵に描いた餅になるので、それを避けるために「大学ファンド」の暖機運転中は、段階的に卓越大学の認定を行うという現実路線にかじを切ったのではないでしょうか。という見立てです。
それが東大や京大などの文字通り「卓越」した大規模な大学が何故か選に漏れて、現実的にいえば「後回しにされた」理由ではないかと想像されます。また、「大学ファンド」の運用状況次第で、卓越大学の数や、支援額の削減も想定されることは、大竹氏の上記記事にあるとおりです。そうならないために、慎重に卓越大学の認定を行いたいというのが、中央の本音ではないでしょうか。
個人投資家は為替ヘッジをどう考えるべきか
「大学ファンド」をめぐる最近の興味深いトピックは以上のとおりですが、われわれ庶民にとっても有意義な教訓は、為替ヘッジの考え方にあるでしょう。
長期運用に関して、外貨建ての株式については為替ヘッジは不要だが、債券については為替ヘッジを行った方がリスクを低減できるというのが、いまのところ一般常識なので、「大学ファンド」もセオリー通りに運用を行ったわけですが、債券の比率が高すぎたことが短期的にみたときに、運用の失敗あるいは非効率と見えてしまったわけです。
なので、JSTは「大学ファンド」の運用に失敗しているわけでもないし、ファンド運用のセオリーについて特段おかしなことをしているわけでもないので、個人投資家もそのセオリーをいまのところ信頼し、利用していいのではないかということです。
上記記事の中で、JOYnt代表で金融ジャーナリストの鈴木雅光氏の言葉が紹介されています。
「為替相場は中長期的にはボックス圏で進むため、運用に与える影響は中立として考える。」
(出所)東洋経済ONLINE :
為替ヘッジが首を絞める「大学ファンド」の投資眼 安全運転が裏目?年3000億円資金拠出に暗雲 | 本当に強い大学 | 東洋経済オンライン
為替ヘッジの考え方については「諸説あります」という状態なので、また改めて知見を紹介したいと思います。個人的にも技術的に気になるポイントではあります。
「大学ファンド」に課された、そもそもの無茶振りが問題では?
でも、そもそも疑問なのは、為替ヘッジ云々の技術的な問題よりも、「大学ファンド」の組成と運用を始めつつ、同時に卓越大学への支援も始めるというスキームは、あまりにも無茶振りだなあということです。
そこは、構想の当初から無理があったと思います。運用担当者のJSTももちろん認識しているはずです。普通に考えて、資産運用を初めたときに、運用しながら最初から運用益は取り崩して使いますよというスキームはどう考えても無理があります。(それでうまくいくならみんなやってますよね。)
そのことにようやく関係者が気づいたので、卓越大学の認定作業については無理せず、現実的に「大学ファンド」の諸条件が整い、軌道に乗るのを見ながらにしましょうという現実的な対応にシフトしたのでしょう。(まあ、当たり前の話ですけどね!)
となれば、結局、卓越大学が出揃う具体的な目処としては、2025年度中から2026年度になるのではないでしょうか!?それにしても、ポートフォリオの構築が完了するのは2031年度末の予定なので、相当に先走った運営だと感じるところです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。