京都ふじわらFP事務所

お金と人生をデザインする。京都の独立系ファイナンシャルプランナーです。

「10兆円大学ファンド」は神頼み?

皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!

しばらく更新が滞ってしまいましたが、CFP試験を受験していたためでした。その結果については、後日記事にしますね。

さて、10兆円規模の大学ファンドが組成されることになった件については、以前に記事にしました。
 

 

 fp-f.net

その記事を書くために、「大学ファンド資金運用ワーキンググループ」とかといった内閣府の公開資料を参照していたのですが、特にその議事録の中に、われわれ一般投資家にとっても、興味深く味わい深い発言がいくつかあり、今日はそのあたりを紹介してみたいと思います。

 

実は「大学ファンド資金運用ワーキンググループ」は内閣府に置かれた「総合科学技術・イノベーション会議」の下の「世界と伍する研究大学専門調査会」の諮問機関なんですね。

「総合科学技術・イノベーション会議」
 ▶「世界と伍する研究大学専門調査会」
  ▶「大学ファンド資金運用ワーキンググループ」

という構成になっています。

世界に伍する研究大学を育成するために「世界と伍する研究大学専門調査会」が置かれていて、そのための方便、というよりも一番の眼目として大学ファンドが検討されています。

「世界と伍する研究大学専門調査会」第7回会合で、座長である米コロンビア大学の伊藤隆敏教授が「大学ファンド資金運用ワーキンググループ」の検討結果を報告しているのですが、その議事録からの抜粋です。

支出政策、運用には変動がつきものですが、毎年の大学への継続的・安定的な支援、これがポイントであります。そのためにはバッファーとして2年間分、約6,000億円を確保するということが重要だと考えております。これは過去35年間を分析し、単年リターンが連続でマイナスになったのは、リーマンショック時のケースだけでございます。したがって、1年どーんと落ちても翌年からまたリターンはプラスになるということが多く見られていたということで
ありますので、2年分をバッファーとして持つことによって、市場環境が悪化したときでも支援が途切れることはないということを達成することができるというふうに考えております。

出所:「総合科学技術・イノベーション会議 第7回 世界と伍する研究大学専門調査会」議事録 p.5(太線は筆者)

10兆円のファンドを年利4.38%、インフレ率予想分を控除後に実質3%の運用を行う予定なので、毎年3000億円の運用益を期待しています。

これの2年分を運用開始後早期に蓄積することを目指しています。過去の暴落経験を踏まえて、2年分のバッファーがあれば乗り切れるという判断ですね。

バッファーをどう構築するかというのは、このファンドが運用を開始するのはもう既にお金が入ればいつでも運用できるわけで、一番遅くても来年の4月からは運用できます。
ペイアウトを始めるのは恐らく2022年の4月が予定されておりますので、少なくとも1年はペイアウトしないでバッファーを積める時間がある。だから、最初が肝心で、これから2、3年何とか相場がうまくいってくれれば、そこでバッファーを積むことができれば理想的です。
あるいは4.38%最低限と言っているわけなので、例えば5%、6%の運用益を最初の2、3年で達成すれば、それで少しずつバッファーが積まれていくということになりますので、そのどちらかですね。
とにかく最初何とかうまい相場環境であってほしいという希望的なことも含めて考えております。

出所:「総合科学技術・イノベーション会議 第7回 世界と伍する研究大学専門調査会」議事録 p.13(太線は筆者)

いかがでしょうか、最後の「とにかく最初何とかうまい相場環境であってほしい」の部分は偽らざる本音でしょうね。

大学ファンドはもちろん単純なパッシブ運用ではなく、アクティブ運用が行われるわけですが、アクティブ運用の成功率は必ずしも高くなくて、何もしないほうがマシということもありがちな話ですから、神頼みということではないにしろ、結局は天運が絡んでくるわけですね。

でも筆者の伝えたいのは、そのことを揶揄することでなくて、議事録の以下の部分にも書かれていることなんですよね。

日本では、これまで長期運用ということがほとんど行われてこなかったという点もあり、これに必要な科学的な知見、投資理論などの調査研究も非常に弱い、大学でも余り研究を行っていないということですので、この大学ファンドの運用で得られる経験あるいはデータを科学的に活用しながら理論も深め、それが更に次の段階の運用の高度化や説明責任を果たす際に使っていくということが重要ではないかということで、実際にその運用を行う、それを分析する、そして、将来の運用の高度化につなげていく、こういう好循環を作っていくべきである、調査研究は非常に重要、という認識を記載しております。

出所:「総合科学技術・イノベーション会議 第7回 世界と伍する研究大学専門調査会」議事録 p.7(太線は筆者)

「大学でもあまり研究を行っていない」長期資産運用の科学的知見や投資理論を、大学ファンドの運用と同時に調査研究を行い、共通の知識として蓄積してゆくという理念には、FPの端くれとしても共感するところ大なのです。

ただ、それは同時に壮大な社会実験であることも事実で、10兆円の原資は財政投融資、国債発行がメインらしいので、国民に対する説明責任はシビアなものがあります。

ありがちなのは、単年度の運用成績を云々して批判するたぐいのもので、そもそも長期投資を行っているのだから、科学的、合理的には無視すればいい、的外れな批判なのですが、原資が税金なのであながち一蹴もできないというところが悩みどころです。

そこのところを、大学ファンドの実践的調査研究の成果として啓蒙して、長期投資は少なくとも5年、通常なら10年のスパンで考えるべきものという常識を普及させて欲しいものです。

記事のタイトルは少々煽ってしまいましたが、本稿の真意はそこにあるのです。

最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。