皆さま、ご安全にお過ごしでしょうか!
ところで「大学ファンド」ってご存知ですか?
コロナ禍のどさくさの中で、10兆円規模の大学ファンドが設立されることになりました。
正式名称は「世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンド(仮)」といいます。
かねてから懸案の政策だったのですが、コロナ禍の大型財政出動の好機を捉えて、今ならいける!今しかない!という形で、財務省のハードルをパスすることになったのでしょう。
舞台裏がなんとなく透けて見えますね。
約10兆円のファンドを組成して、ポートフォリオはグローバル株式:グローバル債券を65:35の比率で保有し、年間約3%にあたる約3000億円の運用益を確保して、対象大学に配分するというスキームです。
交付対象大学の中心は当然のように旧帝大となるでしょうが、国の税金投入である運営費交付金が年々削減され続けている状態なので、ファンドからの交付金は第二運営費交付金としての性格を有するのではないかとも囁かれています。
逆にいえば、この計画が軌道に乗れば、運営費交付金をもっと削減できるというのが財務省の本音かもしれません。
でも運営費交付金は現在1兆2千億円くらいの規模なので、3000億円では、まあ知れた話ですね。
誰が、どこで、どう検討しているの?
現在、内閣府に「世界と伍する研究大学専門調査会」が設置され、世界に伍する大学とは何か、何を目指すべきかが審議されていますが、その資金的裏付けが大学ファンドで、「大学ファンド資金運用WG」が下部に設置されています。
でも、われわれ一般庶民には国立大学の動静よりも、巨大な大学ファンドが成功するのかどうかが気になります。
もちろん、成功した運用手法を真似できればラッキーだからです。
そういう問題意識で、検討状況を少し覗いてみましょう。
それ儲かるの?
いちばんに気になるのは、どのくらいの成績を期待しているのかということですね。
これが名目4.38%程度を目的としています。
物価上昇率1.38%を除いた実質利回りの目標を3.00%としています。
インデックス投資家が常に注目しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が実質利回り1.7%程度目標なので、それを上回る運用益を目指しています。
ポートフォリオの構成を見てもそれは明らかで、GPIFは株式比率を増やしたものの、古典的な5:5の割合としており、大学ファンドよりも保守的です。
ちなみに、企業年金連合会の利回り実績はGPIFをアウトパフォームしていると理事長がWGで自慢しています。
しかも10兆円という規模は、一部の年金運用機関を上回る規模で、いわゆる巨大な機関投資家「クジラ」にあたります。
約178兆円のGPIFにはもちろん及ばないものの、企業年金連合会が約10.7兆円、国家公務員共済が約8.3兆円、地方公務員共済がでかくて47.2兆円レベルなので、マーケットに与える影響も少なくないでしょう。
実質的に、6頭目のクジラの誕生かもしれません。(規模的には「シャチ」くらいか?)
■5頭のクジラとは…
①GPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)
②日本銀行
③共済 (国家公務員共済年金、地方公務員共済年金、私学共済年金)
④ゆうちょ銀行
⑤かんぽ生命保険
どんな政治的背景があるの?
以下のように自民党の岸田総裁が10兆円大学ファンドについてことさらに政策を主張していたのも、このファンドの巨額買いによる株価上昇、経済対策を企図したものでしょう。
こうしたことによって地方を活性化させていく。さらにはそれを支える基盤として、地方大学や高等専門学校の存在は大きいと思います。「10兆円の大学ファンド」というものを用意して、これを支えていきたいと思っています。
news.yahoo.co.jp
以上のように、なぜか地方大学や高専の重要性(これ自体は間違いなく正しい)とその支援を述べていますが、そもそも大学ファンドは「特定研究大学」のためのファンドであり、実質的には旧帝大がメインの受益者となるでしょうから、これは的外れというか、選挙用のポーズでしょう。
ただし、大学ファンドの創設は「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」として閣議決定された政策なので、実は経済対策なんですね。
その意味では、地方の経済対策という名目で、今後ファンドによる支援の方向性が、政治的に変更される可能性ありですね。要注目です。
WGの議事録は、われわれ庶民の参考にもなる!
「大学ファンド資金運用WG」の座長、米コロンビア大学の伊藤隆敏教授は、「世界と伍する研究大学専門調査会」の第7回会合のなかで、示唆に富む発言や、本音をいくつか明かしています。例えば、以下のような発言があります。
「つまり重要な点は、相場が下落したときには投資規律を遵守してリバランスする、つまり価値が下がったものを買うという姿勢が何よりも重要であり、これにより市場の回復局面の価値の上昇の波に乗るということが可能になる、これが世界の長期投資家の常識となっております。」
出所:総合科学技術・イノベーション会議 第7回 世界と伍する研究大学専門調査会 議事録
内容的にはインデックス投資の有名著作にも出てくるフレーズでお馴染みのものですが、金融庁も含めて、この常識が、今の国としての公式な認識になっているということですね。
いかがでしょうか、皆さまの資産運用の参考になれば幸甚です。
さて、大学ファンドの動きについては、非常に興味深く、われわれ庶民にとっても参考になる最新情報が含まれるので、今後も継続的にウォッチを続けたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。本日もご安全に。
参考
www8.cao.go.jp
www8.cao.go.jp
www3.nhk.or.jp
▶われわれ庶民はこのあたりの本を読めば、資産運用の基本的なことが分かります。大学ファンドも、原理的には同じことをしようとしています。
▶「10兆円大学ファンド」の動向には引き続き注目していきます!